ニュースの天才

ニュースの天才
監督・脚本: ビリー・レイ
出演: ヘイデン・クリステンセンピーター・サースガードクロエ・セヴィニー
ストーリー:(ねたばれあり)
大統領専用機にも置かれる格式高いオピニオン雑誌、"The New Republic"。この映画は、この雑誌を舞台に実際に起こった記事捏造事件を元に作られている。
主人公スティーブ・グラスは人の興味を引くような記事を次々にものにし、有望な若手として認められていく。気さくで気配りを忘れない人柄に編集部内の人望も厚い。しかし、"Hack Heaven"という記事に他紙の記者が疑問を持ったことをきっかけに、スティーブの記事捏造が暴かれていく。
感想:
主人公がなぜ捏造に至ったのか(それも、少し調べればすぐにわかるような甘さで)は映画ではあまり描かれていない。また、ウソがばれた後、「一人では運転できないので空港まで送って欲しい」と頼むような弱さ、子供っぽさと、記事の矛盾を突かれたり、証拠を求められた時の強弁ぶりの落差がものすごく、主人公がどんな人なのか、捏造に至った心の動きを想像して共感するのは難しかった。
記者の慌しい生活、時間内に記事を書き上げなければいけないプレッシャー、社内の何重ものチェック体制は業界を知らない私には興味深かった。そんなチェックを逃れられたのは、彼が周囲の人に好かれ、信頼されていたのが大きかったのだろう。「有能かつ、気配りのできるいい人」で通っているために、捏造を追及していく新編集長も初めは旧編集長派の追い落としをしているだけだろうと疑われてしまうほどだ。
主人公は捏造という、記者としての基本的な倫理を踏みにじったことに対してどう感じていたのだろう。周りの人からの好意や信頼は、「まだ大丈夫だ」という後押しになっていたのか、それとも自分の葛藤を(感じていたとすれば)より深める要因になっていたのだろうか。
実在のStephen Glassは解雇の後、ロースクールに通い、"The Fabulist"という、記事を捏造する記者を描いた小説を出版している。CBSのインタビューを受けた際には「なんでこんなことをしたのかわからない」「自分がなぜこういうことをしたのかわからない限り、謝罪はしたくない」とも述べていた。
映画は後半、新編集長の冷静な追求ぶりと、雑誌の信頼を取り戻そうとする同僚たちの行動を描いて終わる。人の移動が激しく、みんなが売名に必死になっている中でスクープ合戦が続く限り、このような事件が生まれる土壌は残るのだろうが、その後、制度としてチェックを強化するような変更はあったのだろうか。

The New Republic誌のお詫び文
http://www.tnr.com/archive/0698/060198/ourreaders060198.html
Forbes.comの告発記事
http://www.forbes.com/1998/05/11/otw3.html
でっち上げられた「Jukt Micronics」のサイト(Forbesのサイトより)
http://www.forbes.com/1998/05/11/otw3b.html
CBS 60minutesの本人へのインタビュー
http://www.cbsnews.com/stories/2003/05/07/60minutes/main552819.shtml