コーマック・マッカーシー/血と暴力の国

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

コーエン兄弟によって映画化された「ノー・カントリー」の方は見ていない。普通の人には理解できない理論で殺人を重ねていく殺人者シュガーと、その犯人に追われることになった主人公モス、彼らに関わる保安官ベルを軸に、ストーリーが展開する。動機が描かれていない分、不条理にも思える殺人が積み重ねられる。
 通り魔が恨み・物取りを目的とした殺人に比べ怖ろしいのは、「理解できない殺意」だからだろう。シュガーの殺意がそれで、作者が"pure evil"と言っているように、殺される側にとっては運が悪い、運命だったとしか言いようがない。モスはそれと戦った。彼が最後まで逃げられると思っていたのか、それともどこかであきらめの気持ちを持ちながら逃げ続けていたのか、ははっきりとは描かれないが、人間の心の強靭さはこういった局面で試されるのだろう。これは主人公モスの妻と「運命」の関わりとの対比で一層明らかになっているように思う。
 訳文の文体には読点が少なく、地の文と会話の区別がないこととあわせて畳み掛けるような口調だ。原文がどうなのか気になる文体だが、これはどのような効果を狙っているのだろうか。他の作品も読んでみたい。